Technical Information and Technical Column
電池の製造工程は?仕組みも併せて解説
電池は電気自動車や乾電池など、身の回りのさまざまなところで使用されており、人々の生活を支えています。
一口に電池といっても、エネルギーを取り出すプロセスや充電の可否によりさまざまなタイプに分けられます。電池の仕組みや製造プロセスは複雑ですが、活用するためにはこれらを把握しておくことが重要です。
そこで本記事では、電池の仕組み、製造工程でステップごとに行うことなどを解説します。電池製造プロセスの一部分には超硬素材が使用されていることもご紹介するので、ぜひ参考にしてください。
電池の仕組み
電池とは、化学・物理・生物学的な反応により得られたエネルギーを、電流という電気エネルギーに変換する装置です。一口に電池といってもその種類はいくつかあり、エネルギーを変換する方法により以下の種類に分けられます。
- 化学電池:化学反応により得られる化学エネルギーを電気エネルギーに変換する
- 物理電池:熱や光などの物理的なエネルギーを電気エネルギーに変換する
- 生物電池:生物由来の物質を利用して電気を生成する
工業・産業分野では主に化学電池が用いられるので、本記事では化学電池に関して詳しくご紹介します。化学電池は大きく「一次電池」と「二次電池」に分類されます。
一次電池は、使用後に再充電ができないタイプです。二次電池と比較して低コストなため、時計やリモコンなど日常でも広く用いられています。マンガン乾電池やアルカリマンガン電池、酸化銀電池、リチウム一次電池などが代表例として挙げられます。
二次電池は、放電と充電を繰り返すことで、電力を蓄えられるタイプの電池です。充電して何度も使用できるため長期的に見ると経済的で、電気自動車やスマートフォンなどさまざまなデバイスに用いられています。鉛蓄電池やニッケルカドミウム電池、ナトリウムイオン電池、リチウムイオン電池などがあります。
上記のように電池にはいくつか種類がありますが、基本的な仕組みはどれも共通です。電池の仕組みを詳しく見ていきましょう。
電池は正極(プラス極)と負極(マイナス極)で起こる酸化還元反応を通じて、化学エネルギーを電気エネルギーに変換します。電極の材料や電解質の種類・特性により異なりますが、化学反応が続く間は電力供給を維持できます。正極に銅板、負極に亜鉛板、電解質に希硫酸水溶液を用いる、シンプルな一次電池の具体例を見ていきましょう。
- 負極の亜鉛板が電子を残して溶け出す
- 負極から発生した電子が導線を伝って正極の銅板へ移動する
- 電子の移動に伴い、正極から負極へ電流が流れる
- 亜鉛板が消耗し尽くす、もしくは電解質が完全に移動すると化学反応が止まる
充電可能な二次電池も基本的な仕組みは上記と共通していますが、外部電源から電流を電池に供給できる点が大きな違いです。この電流は、放電時とは逆方向に電子を移動させる、つまり正極から負極へ再び電子が戻ります。
電池の製造工程
電池の製造は以下の工程に沿って進められます。
- 原材料の準備
- 電極の製作
- 組立
- 電解液の注入
- 封止・充電
- 品質検査
それぞれの工程で行われることや注意点などを詳しく見ていきましょう。
1.原材料の準備
電池を製造する際は、まず原材料を準備します。主な原材料は電極に用いられるリチウム、ニッケル、コバルトなどの金属です。電極の主要成分となるリチウム塩は、塩水鉱床や硬岩鉱物などから採掘・化学処理を組み合わせて抽出されます。
リチウムを多く含む鉱石からリチウムを抽出する際のポイントは、次の通りです。
- 採掘技術の選定
- 鉱石の適切な処理
- 環境への影響
1つ目のポイントは、採掘技術の選定です。鉱石から目的の物質を抽出する際、露天掘りや地下採掘などの技術を用います。露天掘りは坑道を掘らずに直接地面を掘り進める採掘方法です。地表付近にある鉱物を採掘しやすい他、他の採掘方法より低コストで運用できる点がメリットですが、大量の鉱山廃棄物が排出される点が問題です。トンネルを掘る地下採掘(坑内採掘)では、地下深くにある鉱物を採掘できます。岩盤崩壊を防ぐために、安全性や通気性の確保が重要です。
2つ目のポイントは、鉱石の適切な処理です。採掘により抽出されたリチウム鉱石は、追加の処理が施されて炭酸リチウムや水酸化リチウムが生成されます。破砕・粉砕・浮選選鉱・浸出などの追加処理がありますが、どのような処理が施されるかは、鉱石の品質や用途により異なります。
3つ目のポイントは、環境への影響も考慮することです。電池の原料となるリチウム鉱石を採掘する際には廃棄物が大量に排出されますが、適切な処理が施されなければ水質汚染や土壌汚染、温室効果ガスの発生などの問題が発生します。環境への影響を最小限にするには、持続可能な対策の実施、水質汚染防止システムの確立、綿密な埋め立て計画の立案などが重要です。
リチウムを生成した後は、炭酸リチウムの生成ステップへと進みます。高い水準で不純物を取り除き、純度の高い炭酸リチウムを製造することが、製造プロセスの効率化や高品質な電池製造へとつながります。
まずは炭酸リチウムを水に溶かし、ろ過や遠心分離などの技術を用いて不純物を除去するステップです。ここで完全に不純物を取り除くことは難しいので、化学処理や蒸発、結晶化などのプロセスを経て、最終的に純度の高い炭酸リチウムを濃縮・単離します。
2.電極の製作
原材料を準備した後は、電極を製作します。正極と負極の製作方法をそれぞれ詳しく見ていきましょう。
正極には酸化反応を起こし、電池内での化学反応を促進する役割があります。そのため、正極材料には以下の性質が求められます。
- 高い電気伝導率:電気を効率的に伝え、反応速度を向上させる
- 化学的安定性:腐食や分解に耐えうる抵抗力が不可欠
- 電気的安定性:電子をスムーズに放出し、化学反応への高い反応性が求められる
主な正極材料は、コバルト酸リチウムやマンガン酸リチウム、ニッケル酸リチウム、リン酸鉄リチウムなどです。
実際に製作する際は材料を選定した後、導電性を高めるためにカーボンブラックやグラファイト(黒鉛)などの物質を添加して混合します。続いてアルミニウム箔を主材料とする集電体にコーティング。そして導電性と安定性を確保するために乾燥処理を施し、溶媒を除去します。
負極で起こるのは、物体が電子を放出する還元反応です。一般的には導電性に優れたグラファイト(黒鉛)が用いられますが、電気的性能をさらに高めるためにいくつかの処理が施されます。例えば、副反応を抑えるための保護材料の塗布、添加剤との混合などです。グラファイト以外にも、酸化物スピネルも負極材料に使用されます。
なお正極と負極は、イオンの移動が可能な多孔質の材料でできたセパレータで隔てられています。セパレータとは、ポリプロピレンやポリエチレンなどの合成樹脂や、不織布などで作られる物理的な障壁です。正極と負極が直接接触して短絡(ショート)するのを防いだり、異常発熱が発生したりするのを防ぐ役割があります。
3.組立
電極を制作し、セパレータも用意した後は組み立てます。組み立てる際に重要なのは、先述した通り正極と負極が直接接触しないような構造にする点です。
それぞれの電極が接触しないようセパレータを挟みながら、捲回機を用いて巻き取ります。巻き上げた電極とセパレータ(捲回体)は、ラミネート電池容器内に格納します。
続いて行われるのは、絶縁試験機にて短絡チェックを実施し、X線透過装置で巻きずれを検査するプロセスです。
4.電解液の注入
絶縁試験機による検査の基準を満たす捲回体には、電解液が注入されます。電解液とは、イオン性物質(電解質)を水などの溶媒に溶かした溶液です。電池内部で、正極と負極の間でイオンを移動させる、重要な役割を持ちます。
電解液の水分量は、電池の性質に大きな影響を及ぼすので注意しましょう。特にリチウムイオン電池の内部に水分が入ると、水分が触媒となりフッ化リチウムやフッ化水素酸、電気絶縁体などの劣化生成物が製造されます。高品質な電池を製造するには、内部の水分量を極力少なくする必要があり、あらかじめ注入する電解液の水分量の検査が重要です。
5.封止・充電
電解液を注入したら、電池を密閉します。このプロセスは封止と呼ばれ、電池を隙間なく包み、外部要因の化学反応が進まないようにするためには重要です。
また充放電も行いつつ、電池内部で発生したガスの除去なども行い仕上げを行います。
6.品質検査
最後のステップは、品質検査です。破損や欠陥がないか、重量や厚みは適切かなどに加えてOCV(Open circuit voltage:開路電圧)もチェックします。
OCVとは、電池に負荷をかけていない状態での正極と負極の電位差です。OCVが適切な値を示しているかどうかで、充電できているか、自発的に化学反応が起きていないかなど電池内部の状況を把握できます。
まとめ
化学エネルギーを電気エネルギーに変える電池は、産業用途から日常生活の中に至るまで、多くの場面で用いられています。さまざまなタイプの電池がありますが、正極と負極で起こる酸化還元反応を利用してエネルギーを取り出す点は共通です。
電池を製造するステップは複雑で、「原材料の準備」「電極の制作」「組立」「電解液の注入」「封止・充電」「品質検査」など多岐にわたります。それぞれのステップで重要なポイントはいくつかあるので、本記事を参考に把握しておきましょう。
また電池制作に関しては、その仕組みや製造プロセスだけでなく、電池の封口板や絞りなどの部品には超硬素材が使用されていることも把握しておくことが重要です。
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