Technical Information and Technical Column
タングステンのリサイクルとは? リサイクルの重要性や手順を紹介
レアメタルの一種であるタングステンは、非常に硬度が高い金属元素です。鉄やアルミニウムなどにはない特別な特性を持っているため、半導体や電気のフィラメント、医療業界、宇宙産業など幅広い用途で用いられています。
タングステンは多くの産業で重宝される一方で、リサイクルは非常に重要な課題です。環境への負荷や技術的な複雑さなど、多くの課題が立ちはだかっています。タングステンを活用するなら、これらを把握しておくことが重要です。
そこで本記事では、タングステンの概要やリサイクルの現状、リサイクル方法に加え、リサイクル方法の研究・技術開発などを網羅的に解説します。タングステンへの理解を深めたいと考えている方は、ぜひ参考にしてください。
タングステンとは
タングステンとは、スウェーデン語で「重い石」を意味する金属です。銀白色で非常に硬く、重量のあるレアメタルの一種です。
周期表の第6周期、第VIIB族に属する遷移金属元素で、原子番号74を持ちます。タングステンの物理的・化学的特性は、以下の表の通りです。
原子番号 |
74 |
元素記号 |
W |
密度 (mg/m3) |
293K:19.3 |
融点(K) |
3653 |
沸点(K) |
5800 |
電気抵抗率(10-8Ωm) |
293K:5.4 |
比熱 (J/kgK) |
273-373K:138 |
熱伝導率(W/mK) |
273-373K:174 |
線膨張係数(10-6/K) |
273-373K:4.5 293-2273K:5.4 |
タングステンは鉄やアルミニウム、銅などと比較すると、普段はあまり耳にしない金属元素ですが、実際は身の回りでさまざまな製品に加工されています。
タングステンの主な用途は、以下の通りです。
- 半導体産業
- 光源用フィラメント
- 放電灯用電極
- X線管用陽極
- ヒートシンク(銅タングステン)
- プローブピン(レニウムタングステン)
- マグネトロン陰極フィラメント (トリウムタングステン)
- 抵抗溶接電極
- 携帯電話振動子用重錘
- 高温炉
- 工業用工具
- 宇宙産業
- パワーデバイス補強板
- X線CTなどの医療機器から発せられる放射線の遮蔽材
- カテーテル治療器具
タングステンの特徴
ここからは、タングステンの具体的な特徴を詳しく見ていきましょう。主な特徴は、以下の通りです。
- 融点が高い
- 硬度が高い
- 密度が高い
- 電気抵抗が大きい
1つ目の特徴は、融点が高い点です。タングステンの融点は、約3,400度と全ての金属元素の中で最も高い融点を持ちます。特に耐熱性が高く、多くの産業・工業用途で用いられます。高温環境下でも形状が安定しており、熱膨張率が低いのが利点です。
2つ目の特徴は、硬度が高い点です。タングステン鋼の硬度は通常8.5〜9.5の範囲内にあり、普通の鋼の2倍、チタンの4倍の硬度を持ち、ダイヤモンドに次ぐ硬さを誇ります。高温環境下でもその高い硬度性能を発揮し、1,000度でも十分な硬度と耐摩耗性を保てるのが利点です。また、タングステンを配合した超硬合金も高硬度で耐摩耗性にも優れており、切削道具やフライス、ドリルビットなどの材料として使用されています。
3つ目の特徴は、密度が高い点です。タングステンの密度は、約19.3 g/cm³で、鉄やアルミニウムなどの多くの金属と比較して高い値を示します。一度が高いとその分、搬送コストや動力エネルギーも大きくなりますが、強度が高く耐久性に優れた製品を作れます。
密度の高さは、加工の難しさにも直結する点が把握しておきましょう。通常の金属加工方法では取り扱いがしづらいため、特殊な工具や技術が必要となります。
4つ目の特徴は、電気抵抗が大きい点です。この特徴を基にして、放電性・耐放電消耗の高い放電電極棒などの製品に加工されています。
※参考:株式会社アライドマテリアル.「タングステンの特長」.
https://www.allied-material.co.jp/techinfo/tungsten/features.html ,(参照 2024-06-06).
※参考:大連三晟精密機械有限公司.「大連三晟精密機械有限公司」.
https://www.sansmachining.com/タングステン鋼とステンレス鋼のの違い ,(参照 2024-06-06).
タングステンのリサイクルが課題
機械的・物理的・化学的性質に優れたタングステンはさまざまな産業で用いられていますが、レアメタルの一種です。タングステンの全世界の埋蔵量は250〜300万トン(W純分)とされており、いずれは枯渇するとされています。
このように資源は限られているのでリサイクルが必要ですが、多くの課題を抱えているのも事実です。主な課題には以下が挙げられます。
- 採掘時の環境への負荷が大きい
- リサイクルプロセスが複雑である
- 適切に処理しないと環境に悪影響を及ぼす
1つ目の課題は、採掘時の環境への負荷が大きい点です。タングステンの採掘時は、環境に多大な負担をかけます。採掘時には高度な技術と、大規模なインフラ整備が必要であるためです。
例えばベトナムのNui Phao鉱山では大規模な露天掘りが行われており、直径450メートル、深さ190メートルの巨大ピットが創設されています。露天掘りは広範囲の土地が掘削されるため、植生が失われ生態系が破壊されます。また採掘プロセスで生じる酸性鉱山排水(AMD:Acid Mine Drainage)は強酸性であり、土壌や地下水に有害金属を流出させることから、生態系に深刻なダメージを与える点も問題です。
2つ目の課題は、リサイクルプロセスが複雑である点です。使用済みの製品から得られるタングステンから純粋なタングステンを取り出すには、高度な化学処理や分離処理が必要となります。詳しくは後述しますが、処理コストの削減を目指した技術開発が進められています。
3つ目の課題は、適切に処理しないと健康や環境に悪影響を及ぼす点です。タングステンの処理に際して発生する粉じんや煙、ガスなどに暴露されると呼吸器や目がダメージを受けます。廃棄の際にも環境に大きな負荷を与える可能性があり、課題となっています。
※参考:日本タングステン株式会社.「タングステンの粉体粉末冶金用語事典」.
https://www.nittan.co.jp/products/tungstennogenryou.html ,(参照 2024-06-06).
※参考:独立行政法人 エネルギー・金属鉱物資源機構 金属資源情報.「ベトナム・Nui Phaoタングステン鉱山の現状と取り組み」.
https://mric.jogmec.go.jp/reports/current/20160602/1454/ ,(参照 2024-06-06).
タングステンのリサイクル方法
タングステンのリサイクル方法は、以下の通りです。
- 使用済みの素材を回収
- 再利用可能な状態に加工
それぞれのリサイクル方法の詳細を解説します。
使用済みの素材を回収
まず行うべきプロセスは、使用済み製品からの素材回収です。鉱石に含まれるタングステンの割合は1%にも満たないものの、超硬工具にはタングステンが80%以上含まれています。鉱石からの精錬プロセスの複雑さや効率、コストを考慮すると、使用済み製品から回収する方が圧倒的に効率的なのです。
例えば三菱マテリアルはサステナビリティに関する取り組みを推進しており、使用済み製品の回収と再資源化に積極的に取り組み、超硬工具製品のリサイクルやタングステン原料比率などの目標値を設定しています。
日本新金属株式会社でもタングステンスクラップの回収を積極的に実施しており、切削作業に使用され使い古された超硬工具や、工場で収集された廃棄物、原料の配合段階で失敗したもの、製造工程での余剰材料などをその後のリサイクルプロセスへと回しています。
※参考:日本タングステン株式会社.「タングステンの粉体粉末冶金用語事典」.
https://www.nittan.co.jp/products/tungstennogenryou.html ,(参照 2024-06-06).
再利用可能な状態に加工
タングステンスクラップを収集したら、その中から再利用可能な状態に加工します。主には、以下の処理が実施されています。
プロセス |
処理内容 |
酸化焙焼処理 |
融点以下の温度で熱して揮発性物質を蒸発させたり、化学変化を起こしたりする |
オートクレーブによる抽出 |
オートクレーブ(密閉環境内部を飽和蒸気により高温高圧にできる装置)内部にソーダ灰(苛性ソーダ)を加え、タングステンを抽出する |
イオン交換 |
イオン交換カラムでイオン交換を行い、タングステン酸アンモニウム(APT)を生成する |
溶融塩電解法 |
エバポレーター(容器内部を減圧し液体を蒸発させる装置)によりAPTを晶出させる |
か焼 |
高温で熱して化学反応を起こし、酸化タングステンを生成する |
還元 |
還元により酸化タングステンから純粋なタングステンを得る |
炭化 |
炭化させタングステンカーバイド粉を得る |
上表のように化学処理やイオン交換、濃縮・結晶化を行い、酸化タングステン粉の状態にし、還元することでタングステン粉となります。専門的な知識と技術を必要とするため、専門のリサイクル業者が行うのが一般的です。
リサイクル方法の研究・技術開発
超硬材料のリサイクルは、資源の有効活用と環境保護の観点から非常に重要です。その一例となる、住友電工の事例をご紹介します。
同社では、タングステンのリサイクル手法に、かつては亜鉛処理法が用いられてきました。亜鉛処理法とは、タングステンスクラップを亜鉛と混合して溶解させ、タングステンを回収する処理方法です。エネルギー消費が少ないものの、高純度化はできない点が課題でした。
そこで開発された技術が、イオン交換樹脂法です。これは酸化力の強い硝酸ナトリウムと共に超硬工具スクラップを溶解する方法です。この手法が開発されたことにより、従来よりも効率的にタングステンを効率的に回収できるようになっています。
普及と普及に向けた研究と技術開発は、今後も続けられることが期待されるでしょう。
まとめ
本記事では、タングステンの概要やリサイクルの課題、実施方法、研究・技術開発などを網羅的に解説しました。
タングステンは金属元素の中で最も融点が高く、半導体産業や医療業界、宇宙産業など幅広い分野で用いられています。
このようにさまざまな産業で活用されているタングステンですが、地球上の資源は限られているため、リサイクルが重要です。タングステンには「採掘時の環境への負荷が大きい」「リサイクルプロセスが複雑である」「適切に処理しないと環境に悪影響を及ぼす」などの課題があります。タングステンを利用する事業者はその限られた資源と環境への影響を考慮し、リサイクルも真剣に検討すべきでしょう。
エバーロイ商事株式会社はアフターサービスとして、お客さまより使用済みの超硬部品などを回収し、専門業者へ持ち込みリサイクル処理を依頼しています。当社もお客さまの環境負荷軽減のお役に立てるよう、日々活動を行っています。
2023年度は、487Kgの回収リサイクル処理に貢献しました。487Kgのスクラップ材は、専門のリサイクル業者で445Kg(リサイクル率91.4%)のタングステン粉末材料として活用されています。
タングステンをはじめとする超硬素材・超硬製品の開発や素材選定、精密加工サービスをお探しの方は、リサイクルも推進している当社のサービスのご利用をぜひご検討ください。
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