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高速度工具鋼とは?種類や製造方法、メリット・デメリットなどを徹底解説

金属切削や加工を行うために、高速度工具鋼を活用しようと考えている方もいるでしょう。高速度工具鋼は主に金属の切削を行うことに特化した、鋼の一種です。

一口に高速度工具鋼といっても、含有されている物質によって性質が異なるため、その特性を最大限引き出すためには正確に把握しておく必要があります。高速度工具鋼とは具体的にどのような物質を指すのか、種類ごとの特性にはどのような違いがあるのか、どのように扱うかなど、理解しておきましょう。

本記事では、高速度工具鋼の概要や種類、製造方法などを解説します。高速度工具鋼のメリット・デメリット、扱う際の注意点などもご紹介するので、ものづくりや金属加工の際に参考としてください。

高速度工具鋼とは?

高速度工具鋼とはその名の通り、高速で金属材料や被加工材の切削を行うために開発された鋼の一種です。英語では「High Speed Steel:ハイスピードスチール)」と呼ばれることから、ハイス鋼やハイスとも略されます。製造工程の観点から、大きく溶性ハイスと粉末ハイスに分類されます。

高速度工具鋼は、粘り強さと柔らかさがあり加工しやすい点が特徴です。そのため、広範な用途の切削用具や、汎用的な作業道具の主要素材として用いられています。

高速度工具鋼とは?

高速度工具鋼の種類

高速度工具鋼には、主に以下にあげる種類があります。

  • タングステン
  • モリブデンハイス
  • コバルトハイス
  • マトリックスは椅子
  • 粉末ハイス

それぞれの高速度工具鋼の概要や特徴、用途などを詳しく見ていきましょう。

タングステン

タングステンハイスは、その名の通りタングステン(W)が配合された高速度工具鋼です。

一般的に、10数%前後のタングステンを含有しており、炭素(C)やクロム(Cr)、バナジウム(V)、コバルト(Co)なども含まれていますが、モリブデン(Mo)は含まれていません。

鉄やアルミニウムなど工業で使用される金属元素はさまざまですが、タングステンは金属の中でもっとも融点が高く、高比重であり硬い特性を持つ点が特徴です。耐熱性が高く、熱膨張による影響も小さいため、高温環境下でも高い強度を維持できる点がメリットです。

タングステンハイスは硬度と耐摩耗性などの面で優れており、金属を加工する一般切削用工具や、削りにくい高難削材質の切削工具や旋削加工用の工具に用いられます。代表的な高速度工具鋼には、SKH2やSKH3、SKH4、SKH10などがあります。

関連記事:タングステンとは?特徴と主な用途について解説

モリブデンハイス

モリブデンハイスは、モリブデン(Mo)を5%前後、タングステン(W)を6%前後含む高速度工具鋼です。代表例は、SKH50からSKH59までの10種です。

レアメタルであるモリブデン(Mo)は、主に鉄鋼用の添加剤に用いられます。融点が高く、加工性にも優れており、硬度や耐衝撃性を高める特性もあり、靭性が求められる一般切削用具や高難材切削用具などが主な用途です。

モリブデンハイスはモリブデンが含有されていることにより、タングステンハイスと比較して靭性が高い点が特徴です。タングステンは高価かつ融点も高いため、製造コストもかさむ他、焼入れ温度が問題となります。そのため、含有量が半分程度でも同じ効果を発揮するモリブデン(Mo)が使用されるようになりました。

コバルトハイス

コバルトハイスとは、コバルト(Co)が加えられた高速度工具鋼です。一般的な高速度工具鋼よりも、高い硬度と耐摩耗性を持つ点が特徴です。

粉末冶金法を用いてコバルト粉末を焼結させて製造する「コバルト粉末ハイス」と呼ばれるタイプもあります。

マトリックスハイス

マトリックスハイスとは、通常の高速度工具鋼よりも炭素含有量が低いタイプです。セミハイス系とも呼ばれており、一般的な高速度工具鋼とダイス鋼のちょうど中間的な性質を持っています。

HRC56からHRC62の硬度範囲で、従来のダイス鋼には見られなかった耐久性、靭性、耐熱が備わるよう調整されています。

粉末ハイス

粉末ハイスとは、粉末冶金法により製造される高速度工具鋼です。粉末冶金法では、金属の粉末を金型に入れ圧縮して固め、その後高温で焼結します。焼入れ温度が高いと、硬度も上昇する性質があります。

高速度工具鋼と超硬合金の違いは?

ここまで高速度工具鋼について詳しく解説してきましたが、「超硬合金とどのような違いがあるのだろうか」と気になっている方もいるでしょう。

そもそも超硬合金とは、硬質の金属炭化物と鉄系金属で合成される合金の総称です。超硬合金は、JIS規格(Japanese Imdustrial Standards:日本産業規格)により、P種・M種・K種・N種・S種・H種の合計6つに分類されます。

代表的な超硬合金には、レアメタルの一種であるタングステンが炭化した「炭化タングステン(WC)」と結合剤である「コバルト(Co)」を混合して、高温で焼結したWC-Co合金があげられます。耐久性や耐摩耗性に優れている他、硬度が高い点が特徴です。

高速度工具鋼と超硬合金は、硬度と靭性が異なります。硬度は超硬合金の方が優れており、高速切削が可能です。靭性は高速度工具鋼の方が高く、チッピング(欠け)や破損に強いため、耐久性を求める加工やメンテンナンスコストを抑えたい場合などに適しています。

上記のように違いがあるため、具体的な使用シーンや切削条件などに応じて使い分けるのが重要です。

関連記事:超硬合金(超硬質合金)とハイス鋼(高速度鋼)の違いは?利用に適した場面も紹介!

高速度工具鋼の製造方法

高速度工具鋼の製造方法により、溶性ハイスと粉末ハイスに大別されます。それぞれの概要や製造方法などを詳しく見ていきましょう。

溶性ハイス

溶性ハイスとは、鉄鋼材料などの原料を電気炉などで溶解してから圧延し、成形する手法で製造される高速度工具鋼です。一般的に多くの高速度工具鋼が、溶性ハイスに分類されます。

溶性ハイスは、合金組織を構成する結晶の粒度が粗く、不規則な構造になる点が特徴です。

粉末ハイス

粉末ハイスは先述した通り、一度材料を溶かしたものを粉末にし、圧力と熱を同時に加えながら焼結して製造されます。細かく粉末状にして圧縮し加熱するという工程上、組織が緻密になり強度が増す点がメリットです。

粉末ハイスは溶性ハイスと比較して靭性が高く、耐摩耗性にも優れています。「耐久性がある」「耐摩耗性がある」など高性能な切削道具を製造することができるため、長期にわたって生産効率の向上と製品品質の維持が可能です。

高速度工具鋼のメリット

高速度工具鋼のメリットは、以下の通りです。

  • 靭性が高く加工しやすい
  • コストパフォーマンスに優れている
  • 切削加工の効率が高まる

高速度工具鋼のメリットとしてまずあげられるのが、靭性が高く加工しやすい点です。このメリットを活かして、切削工具をはじめとするさまざまな加工器具の素材として用いられています。靭性が高いため、チッピング(欠け)や破損しにくく、長期間の使用にも耐えられます。

またコストパフォーマンスに優れている点も、メリットです。先述した通り強度こそ超硬合金に及ばないものの、高速度工具鋼は原料を溶かして圧延して成形したものなので低コストで製造できます。加えて耐久性が高く、長期間使用できます。工具の交換頻度が減るため、メンテナンスコストを節約できるでしょう。

さらに高速度工具鋼は、切削加工の効率にも好影響をもたらします。高速度工具鋼は振動に強く、断続切削が可能です。高温下でも硬さを維持できる特性もあります。

高速度工具鋼のデメリット

高速度工具鋼はメリットだけでなく、デメリットもあります。高速度工具鋼を活用する際はデメリットも正確に把握しておくことが欠かせません。

特に重大なデメリットはありませんが、超硬合金と比較して劣る部分はあります。例えば、耐衝撃性や耐摩耗性、硬度は超硬合金に比べて高くはありません。加えて加工精度も劣るため、特定の超微細加工や精密加工では超硬合金の方が適切でしょう。

また一部のコーティング材と相性が悪く、使用できないケースもあります。

高速度工具鋼を扱う際の注意点

高速度工具鋼を扱う際は、約600度付近で急激に硬度が低下する点には注意してください。硬度低下が誘発されると、性能が低下し、加工効率が悪くなる可能性があります。寸法精度が低下し、加工品質が劣化することもあるため、対策が必要です。

そのため、高速度工具鋼を使用する際は以下の点に注意しましょう。

  • 温度が高くなり過ぎないよう、切削速度を調節する
  • 鋭利な工具に交換して、切削抵抗を最小限に抑える
  • 摩擦熱を減少させるために、切削油を注入して潤滑する
  • 切削部分を冷却する
  • 切屑を除去し、工具に過熱を防ぐ

上記の対策を施せば、高速度工具鋼が高温になり過ぎることを防げるため、加工精度や加工効率が高まる他、工具自体を長持ちさせる効果が期待できます。

高速度工具鋼を開発する際にも、注意しなければなりません。切削・研磨加工中に発生する熱の産生を抑えるために、切削油や研削油を用いた湿式加工が必要です。こうすることで、刃先の鋭角さを維持できます。

まとめ

本記事では、高速度工具鋼の概要や種類、製造方法、メリット・デメリット、使用時の注意点などを網羅的に解説しました。

高速度工具鋼は高速切削作業に適した素材で、大きくタングステンハイス、モリブデンハイス、コバルトハイスなどさまざまな種類があります。添加物質の配合割合により性質が異なるため、それを理解して使い分けるのが重要です。

硬度、耐摩耗性、靱性に特に優れており、チッピングや破損しにくい点がメリットですが、温度が高過ぎると急激に硬度が低下する点には注意が必要です。

超硬素材・超硬加工 ソリューションナビを運営するエバーロイは、超硬素材・超硬製品の開発サービス、超硬素材の選定サービス、超硬合金の精密加工サービスを提供しています。素材開発から設計、精密加工に至るまでを一貫して受注することで、さまざまな顧客ニーズに応えてきました。

高速度工具鋼に関して、「どのような素材を選べばいいのか分からない」「製造方法が不明で困っている」「メリット・デメリットや注意点を把握したい」などのお悩みがありましたら、ぜひお気軽にお問い合わせください。

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