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耐摩工具とは?切削工具との違いについても解説
耐摩工具とは、使用中に発生する摩擦や熱、圧力に耐えられるよう設計された工具です。圧延工具・引抜き工具・せん断工具・鋳造工具などいくつかの種類があります。
耐摩工具はいくつかある金属加工工具の一種ですが、その概要を詳しく理解できてない方もいるでしょう。切削工具との違いを把握したり、耐摩耗性のある超硬合金への理解を深めたりすることが、耐摩工具を活用する上では欠かせません。
そこで本記事では、耐摩工具の概要や特徴、種類などを詳しく解説します。記事後半では、切削工具との違いや耐摩工具のある超硬合金もご紹介するので、併せて参考にしてください。
耐摩工具とは?
耐摩工具(耐摩耗性工具)とは、雄型と雌型の対となった工具で素材を挟み込み、強い圧力を加えることで材料を指定された形に成形する塑性加工(切りくずの出ない加工)に用いられる工具の総称です。塑性加工については後述します。
耐摩工具には摩擦に強い性質があるため、特に耐久性や耐摩耗性が求められるシーンで利用されます。詳しくは後述しますが、圧延工具・引抜き工具・せん断工具・鋳造工具などが主な種類です。その他、被加工材を特定の形に成形する絞り金型や粉末成形金型、電子部品の形成に使用するダイ・バンチなどの電子関連部品用工具などもあります。
摩擦や圧力に耐えられるように、素材には高い硬度と耐久性を持つ超硬合金が用いられます。
塑性加工とは
塑性加工とは、材料に強い力を加えて目的の形状に加工する技術です。一定の力を加えるとその形状を維持する金属の性質「塑性」を利用しています。
塑性加工のメリットは、せん断(はさみ切り)しない分強度を高められたり、力を加えて加工することで金属が持つ加工硬化を引き出せたりする点です。あらかじめ決められた形を用いるため製品を低コストで大量生産しやすい他、加工時間が短くエネルギー効率が良い点などもメリットに挙げられます。
一方で、大規模な加工設備と高額な設備投資が必要となり、機材のメンテナンスにもコストがかかる点がデメリットです。また一部の塑性加工方法では、切削加工と比較して寸法精度が劣ります。
耐摩工具の特徴
耐摩工具の大きな特徴は、長時間の熱・圧力・摩擦に耐えられる能力を持っている点です。この高い耐摩耗性があることにより、化学繊維や加工食品、自動車や通信機器の製造など、さまざまな生産工程で広く使用されています。
これらの産業では、金属の圧延や引抜き、鋳造、せん断、打抜きなどの加工を行います。高い圧力や摩擦、衝撃が加わるため、加工に用いる工具はそれに長時間耐えられるものでなければなりません。そこで高い圧力や摩擦を加える加工時に、耐摩工具が使用されます。
これらの加工方法は工具にかかる負担が大きく、通常の工具では摩耗や破損が発生してしまいます。その点、耐摩工具は負荷に対し耐性があるため、精度の高い加工や処理を実現できるのです。
耐摩工具の種類
耐摩工具には、以下に挙げる工具があります。
- 圧延工具
- 引抜き工具
- せん断工具
- 鋳造工具
それぞれの工具の概要や特徴を解説します。
圧延工具
圧延工具とは、圧延加工に用いられる特殊な工具です。被加工物を平坦または特定の形状に成形するために用いられるもので、熱間圧延ロール、冷間圧延ロール、3方ロールなどが挙げられます。
圧延工具が用いられる圧延加工の概要を詳しく見ていきましょう。
圧延加工とは被加工物(主に金属)を、一対の回転するロールの間に通して圧縮し、薄く広げる加工技術です。スラブ(鋼片)を薄く板状に伸ばした帯鋼や、丸棒状のバー材、断面がH形やL形になった非板状の圧延品である条鋼などの製造に広く用いられます。
圧延加工は大きく、熱間圧延・冷間圧延・温間圧延の3つに分けられます。
熱間圧延とは、金属を再結晶温度以上に加熱する圧延加工方法です。再結晶温度以上で加工されるため、金属の延性が高まり加工が容易になるメリットがあります。一方で加工時と加工後の温度変化が大きく寸法精度はあまり高くない点や、加熱にエネルギーとコストがかかる点がデメリットです。
冷間圧延とは、再結晶温度以下の常温で圧延する加工方法です。熱間圧延された帯鋼をさらに引き伸ばして板の厚みを均一にし、加工硬化後に熱処理のより強度を高めます。金属の編成抵抗が大きく加工性が悪い点や、圧延機に大きな負担がかかるなどがデメリットです。
温間圧延とは、熱間圧延と冷間圧延の間を取った加工方法です。両者のデメリットを補えます。
引抜き工具
引抜き工具とは、引抜き加工に用いられる加工工具です。代表的な引抜き工具には、円柱状または円盤状の材料を特定の断面や細さに加工する際に用いられるダイスなどが挙げられます。
引抜き加工の概要や特徴をご紹介します。
引抜き加工とは、金属材料をダイスに通して引き抜くことで、特定の断面形状や細さに加工する加工方法です。単純引抜き加工やパイプ状の管材を引き抜く空引き、ローラーダイスやタークスヘッドを用いるものなどさまざまな種類があります。主に線材や棒材の製造に使用される加工方法で、精密な製品を製造する際に適しています。ダイとの摩擦により表面に光沢が生まれる点もメリットです。
一方で、加工方法が特殊であるため断面の形状が限られる点や、引き抜きを繰り返すと加工硬化が進み、断線する可能性が高まる点には注意しなければなりません。
せん断工具
せん断工具とは、せん断加工に用いられる加工工具です。ロータリーナイフやスリッターナイフなどが挙げられます。
せん断工具が用いられるせん断加工の概要を見ていきましょう。
せん断加工とは、金属板を上下から金型でプレスして、高い圧力を加えて切断する加工方法です。以下に挙げる種類があります。
- ブランク加工:コイル板や厚い板材をプレス加工しやすい板状の金属に成形する。
- トリミング加工:被加工物をトリミングして余分な部分を取り除く。
- 穴あけ加工(ピアス加工)パンチで打抜き穴状のせん断を加える。
- コンパウンド加工(総抜き加工):打抜きと穴あけを同時に行う。
- 精密せん断加工:通常のせん断加工より高精度な切断面を得る際に用いられる。
精度の高い製品を大量に生産できる一方で、クリアランス(部品同士の隙間)を調整するのが難しく、厚い金属板のせん断は難しい点などが課題です。
鍛造工具
鍛造工具とは鍛造加工に用いられる工具の総称で、マンドレルや鍛造ダイ、鍛造パンチなどが挙げられます。特に衝撃的な応力が作用する環境下での使用に適しています。鍛造加工の概要を見ていきましょう。
鍛造加工とは、金属を高温に熱して金型やハンマーで叩きながら成形する加工方法です。型を用いない自由鍛造と、型を用いて大量生産する型鍛造に分けられます。工具や食器類、自動車や鉄道用部品、ゴルフクラブを製造する際に用いられています。
強度や耐久性が高く、精密な製品を製造できる点がメリットですが、サイズ制限やコストが高くなる点は念頭に置いておきましょう。
耐摩工具と切削工具の違い
耐摩工具以外にも、工作機械用工具には切削工具などがあります。両者の違いを深掘りする前に、切削工具の概要を理解しましょう。
切削工具とは、切削加工に用いられる工作機械用工具です。切削加工とは、主に金属や木材、プラスチックなどの素材を物理的に削り取り、目的の形状にする加工方法を指します。代表的な切削方法には、旋盤加工やフライス加工などが挙げられます。
旋盤加工とは、被切削物を回転させながら固定された切削工具で削る加工方法です。円盤断面の形状を作る加工に適しています。一方のフライス加工とは、フライスやエンドミルなどの器具を用いて被切削材の表面を削る加工方法です。旋盤加工と異なり被切削物を回転させるため、平面や直線形状の加工に適しています。
耐摩工具と切削工具の違いは、以下の表の通りです。
評価項目 |
耐摩工具 |
切削工具 |
目的 |
材料に強い力を加えて目的の形状に加工する塑性加工に用いられる |
材料を削り形状を整える切削加工に用いられる |
工具の種類 |
・圧延工具 ・引抜き工具 ・せん断工具 ・鋳造工具 ・金型 ・電子関連部品用工具 ・機械取付部品 |
・ドリル ・リーマ ・エンドミル ・フライス ・バイト ・タップ ・ダイス |
メリット |
・高い圧力・熱・摩擦に耐えられる |
・高精度な加工が可能 ・さまざまな形状や材質に対応 |
デメリット |
・高度な加工は難しい |
・摩耗しやすく、定期的なメンテナンスや交換が必要 |
上表のような違いがあるので金属を加工する際は、その目的や用途などから適切な加工工具を選択しましょう。
耐摩耗性のある超硬合金
先述のとおり、耐摩工具に用いられる素材が超硬合金です。超硬合金とは、硬質の金属炭化物と鉄系金属で合成される合金の総称です。レアメタルであるタングステンを炭化させた炭化タングステン(WC)と、結合剤であるコバルト(Co)を高温で焼結したWC-Co合金などが代表例に挙げられます。
超硬合金は大きく、切削用と耐摩耗用に分類されます。耐摩耗用の超合金には細粒子炭化物が用いられており、特に硬度や耐衝撃性が強い点が特徴です。タングステン粒度0.5μm未満の超々微粒子合金や、結合剤であるコバルトやニッケルを含まないバインダレス超硬などが挙げられます。
耐摩耗用の超硬合金は、結合相の種類や密度、WC粒度、硬度などさまざまな項目により細かく分類されているので、用途に応じて使い分けるのが重要です。
まとめ
耐摩工具とは、塑性加工に用いられる工具の総称であり、摩擦・圧力・熱に強い点が特徴です。圧延工具・引抜き工具・せん断工具・鋳造工具など、さまざまな種類があります。それぞれの工具は得意とする加工方法が異なるので、工具と加工方法を併せて覚えておくと良いでしょう。
また耐摩工具は、被加工物を削り取り、目的の形状にする加工方法である切削加工に用いられる切削工具とも異なります。目的や工具の種類、メリット、デメリットを把握しておくと、用途に応じて工具を使い分けられるでしょう。耐摩工具を製造する場合は、耐摩耗性のある超硬合金への理解も深めておくことが必要です。
エバーロイ商事株式会社では、超硬素材選定・超硬製品開発・超硬精密加工を提供しています。素材開発から精密加工までの一貫したソリューション提供により、お客さまの課題を解決に導きます。耐摩工具を製造しようとお考えの方は、ぜひお気軽にお問い合わせください。
この記事を監修した人
大久保 文正
エバーロイ商事株式会社
昭和33年の設立以来、長年にわたり超硬工具の販売。
その製品はエバーロイの名で、広く多くのお客様からご支持をいただいております。
技術革新の激しい時代の中、お客様のあらゆるニーズに対応すべく、製販一体となって当社のオリジナリティを生かした営業活動を推進して参ります。
超硬素材・超硬加工 ソリューションナビを運営するエバーロイは、
素材選定・開発~精密加工、完成品提供までの一貫したソリューション提供により、
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